【目次】姉のウェディングドレスで、花嫁に
第1章
《 地震の朝》《女装での墓参り》《一度だけの願い》
第2章
《 身代わりの花嫁》《初夜を迎える》《女の悦びに満たされて》
《地震の朝》
駐車場に車を止めて、お寺の門をくぐり抜けると、広い境内に入る。石畳を歩き、本堂の裏手にある墓地にお参りをするのです。今は”令和”ですが、もう過去の出来事になってしまった ”平成” のあの日のことを、昨日のことのように思い出すのです。
1月17日、午前5時46分、私は激しい揺れに目覚めた。ゆらゆらと揺さぶられるような動きを感じて、見上げると蛍光灯が揺れていたのです。布団の中にいる私は、大きな揺れで建物が壊れるのではないかと不安を感じながら、地震の揺れが収まるのを待っていたのです。
かなり長い時間揺れていたように感じました。大きな揺れが収まり、しばらくすると廊下で人の声がしていたのですが、その時の私は急いで外に飛び出すことができなかったのです。なぜなら、ひとに見られては困るような姿だったのです。
地震前夜の私は、薄くメイクをしてセミロングのウイッグを被り、下着女装を楽しんでいたのです。右手を激しく使い、下腹部のあの部分を刺激し続けた。いつものように、C社のカメラを三脚にセットして、部屋のピンクのカーテンを閉じると、そこには女の子しかいません。

「ああ、なんて悩ましい下着なの」
「男の人に、何をされるかわからないわよ」
「ああ、あっ、そこは、だめっ」
「こんなに透ける下着で、誘っておきながら」
「ああっ、それ以上は、しないで」
「そんなこと言っても、本当は・・・Hして欲しいんだろ」
「あっ、だめよ、写さないで」
「こんな恥ずかしい下着で、誘惑しておいて」
薄いカード状のリモコンを手にして、シャッターを切る。
「もっと、恥ずかしがってごらん」
「ダメッ,写さないで」
リモコンのボタンを押すと同時に、ストロボが光り、その後すぐにポーズを変えてシャッターをきる。
まだ、デジカメのなかった当時は、あの部分は露出できなかった。
よほどの写真マニアで自分で現像するのでなければ、カメラ店で現像してもらうしかなかった。
仕上がった写真を店で「こちらでよろしいですか?」と毎回のように聞かれるので、代金を支払うとさっと店を出た。写真の女の子と、自分を見比べられないためにも。
「今夜は、セクシーすぎ、ひどくHっぽい」
「あなたのためよ、恥ずかしいのをがまんしてるのよ」
「本当に、がまんしてたのか、好きなくせに・・・」
「着る時も、はずかしいのよ」
「あっ、そんなとこ、触っちゃ」
「触った方がいいんだろ、女の下着で、誘っておきながら・・・」
「アアーン、ダメッ。でも、やめないで、オネガイ」
そして、鏡に映る自分を眺めながら、何度もオナニーで自分自身を慰める。その行為のあと、そのままの姿で寝てしまったのです。前の夜、1月16日のことでした。
激しく揺れた瞬間、私はまだ布団の中でした。ゆらゆらと揺さぶられるような動きで、机の上のものだけでなく、机そのものがずれ動き、メイクに使った化粧品が、飛ぶように投げ出され、ベッドも大きく揺れていたのです。
大きな揺れで、建物が壊れるのではないかと不安を感じながら、布団の中にいる私は、地震の揺れが収まるのを待っていたのです。かなり長い時間、揺れていたように感じました。しばらくして揺れは収まったのですが、まだ外は暗くて、外の様子もわかりませんでした。
そのあと、電気が消えましたが、すぐに灯かりがともりました。私は、セミの羽のように薄いボディスーツに、透けるようなスキャンティー、ガーターストッキングという姿で寝ていたので、そのままの姿で廊下に出るわけにもいかなかったのです。
私が住んでいるワンルームマンションは、男性の入居者が多く、女装した自分の姿を見られたくなかったのです。水道の水が出たので、急いで身につけていた女性の下着を脱いで、メイク落としで洗顔してからブリーフに履き替え、トレーナーを着て、ズボンを穿いたのです。
かなり大きな揺れだったから、テレビで地震情報が放送されているかなとスイッチを入れると、まだブラウン管式だったテレビに映像が映りました。近畿地方で、大きな地震があったとアナウンサーが話している。
「詳しいことは、分かり次第お伝えします」と繰り返していた。
しばらくして、気象情報の時間になったが、神戸では震度6と報じていた。まだ学生だった私は、研究室での実験など深夜までかかることがあり、自宅から離れた大阪で暮らしていた。
自宅は大丈夫かなと心配だったが、当時は携帯電話もなく、テレビに映し出される映像にくぎ付けになっていた。 大阪は震度5と報じられていた、神戸の被害がテレビに映し出され、三宮のビルがゴロンという感じで倒壊していた。
さらに阪急電車の伊丹駅が倒壊し、何人かが亡くなったと報じていた。ジャンバーをはおり、近くの公衆電話に走った、テレフォンカードを差し込んで自宅の番号にかけてみたけれど、全く通じない。
電話の故障かと、バイト先に電話すると「大丈夫か、大きな地震やったな」と店長の声が聞こえた。
5キロほど離れた場所には通じた、しかし、神戸の自宅や友人宅にも電話したが、全くつながらなかった。 駅前まで行くと、電車は動いていなかった。
改札口には、地震による影響で、運転を見合わせていますと張り出されていた。電車をあきらめてワンルームマンションまで戻り、バイクに乗って神戸の自宅に向かった。尼崎あたりから、倒壊した建物や傾いた家があり、人々が公園などに避難していた。
西宮から先には進みにくくなり、信号がまったく点灯していない、道路はあちこちで渋滞し始めていた。芦屋に入ると、国道のアスファルトがめくれあがり、亀裂やゆがみだらけで、道路が波を打っている状態だった。
喉が渇いたが、コンビニも店内は真っ暗で開いていない、停電のため自動販売機も使えなかった。 自宅付近に近づいたとき、あたりの状況のひどさに愕然とした。1階に車庫のある家は、上から押しつぶされたように家屋の2階以上の部分がのしかかり、1階部分や車も押しつぶされていた。
大きなお屋敷の塀が倒れ、まるで、石畳の舗道のようになっていた。その上を人が歩いていた。 自宅は地震の揺れのせいか、二階が一階を押しつぶすように壊れていた。 自分の家だけでなく、昭和に建てられた近所の家も倒壊していた。
母はどこか、姉はどこか、倒れた建物の中に入ろうとしたが、大きな余震があり「危ないから中に入るな」と止められてしまった。 それでも、壊れた自宅のがれきを取り除き、大きな声で母の名前を呼び、姉の名前を呼んだが、何の返事もなかった。
冷え切った神戸の街、ライフラインも遮断され水もなく、乾ききったのどを潤すこともできず、ときどき襲ってくる余震で建物がさらに崩れ落ちていくのを、どうすることもできなかった。
《女装での墓参り》
今日は、5月17日、主人を送り出してから、ひとりで来ました。大震災の時、東京に出張中で助かった父の命日でもあるのです。母や姉の分も合わせて、この日にお参りすることにしているのです。
大震災の時、出張中で助かった父も、私が結婚してから、思いがけず早く亡くなりました。母と姉が亡くなってから、5年が過ぎた後に倒れて亡くなったのです。

お寺の駐車場はがらんとしていて、駐車している車も少なく、すぐに車を止めました。ここは神戸ではなく、被災地から遠く、平日の午後ということもあって、ほかにお参りしている人もいないようです。
ドアを開けて、車から降りたった今日の私は、女装しています。
なぜ?女装しているのか・・・ 女装クラブに行くわけでもなく、家族のお墓にお参りするのに、なぜ、女装しているのかについては、今から過去にさかのぼりお話します。
もう、今から25年も前のことです、病院の宿直が終わり、自分の職員寮に戻った。震災から2年が過ぎていた。 震災で自宅が倒壊したために、卒業後すぐに、僕は職員寮のある病院に就職した。
看護師などの職員寮に比べると、少し狭いけれど、1LDKの部屋は以前よりも広く、浴室と大きなミラーのある洗面所があって、僕には好都合だった。震災で母と姉を失い、心の寂しさを紛らわすために、壊れた家から取り出した母や姉の遺品の中から、父には内緒で母や姉の衣類を僕の部屋に運び込んだ。
ファンデーションでメイクして、アイブローで眉を描き、ルージュを塗ってからウイッグを被ると、鏡の中には母や姉とそっくりな自分がいることに気づいた。

寂しさから、母や姉の肌着やブラウス、スカートなどを身に着けた。
母や姉に会いたくなったら、女装して鏡に映る自分を見つめて会話した。
ひとりで二役を演じながら、母や姉と想い出を語りあったり、仕事のことでどうすればいいか、相談したりしていた。
時には、セックスの話になって、父さんとはどんなふうに愛し合っていたのかを母に尋ねたり、姉には婚約者がいたのだが、どこまで経験したのかを尋ねたりした。
ひとりでエッチな話題を話しながら、ショーツの中で硬くなってきた部分を触れていた。
「まあ、いけない子ね、もうそんな風になってしまうなんて」
「エッチなことばかり聞くから、そう、やっぱり大人になってきたのね」
「じゃあ、こんな風にしてあげようか」
「ダメだよ、触っちゃあ」
「そうね、彼女にしてもらったら」
「もう姉さんったら、そんなこと彼女に頼めないよ」
「彼女とはどこまで進んだの、結婚まで妊娠させちゃだめよ」
「彼女は、・・・妊娠なんかしないから」
「じゃあ、避妊には気を付けているのね、ゴムかピルを使っているの?」
「違うよ、コンドームやピルなんか使わなくても、絶対!・・・妊娠なんかしないから」
「まさか、ニューハーフ?、お〇んちんのある男の娘なの?、母さんは心配だわ」
「大丈夫だから、心配しなくていいよ」
現実にはありえない会話で、僕は興奮して、ひとりで自分自身を慰める行為に夢中になってしまうのでした。
「ああ、きもちいいよ、僕のお〇ん〇んがこんなに堅くなって」
「このままじゃ、かわいそう、こうしてあげる」
「もう、ガマンできないよ、ああっ」
「いきそうなの、いいわ」
「ヒトミ・・・、いくよ、いくっ」
「ヒトミのこと思いながら、いってね」
「ああっ、ヒトミ、いくよっ、いくっ、アアー」
今の彼女は、女装した自分なのです。自分のことを女の子のように「ヒトミ」と呼んで、、一人二役の行為は終わるのです。
《一度だけの願い》
いつしか室内だけの女装から、外出するようになりました。はじめは、夜遅く、近所で人通りの少ない時間にハイヒールを履いて女装散歩を楽しんでいました。
男の時には気が付かなかった、ハイヒールの「コツコツ」という響きが意外に大きく、自分の存在を必要以上に周囲に気づかれてしまうのではないかと心配でした。
お店のショーウインドウに映る自分の姿を見て、ウイッグの具合や、バッグの持ち方に不自然さがないか、自分にばかり注意が向いていました。そのうち、ふくよかなバストやスカートから伸びているストッキングに包まれた太ももに、すれ違う男性の視線が、向けられていることに気づきました。
女装で街を歩くときには、ブラのカップもCまでにして、あまりスカートも短くしないようになりました。不自然に周囲に目立つ、ミニスカートや大きすぎるバスト、濃い化粧だと、女子高生など、大きな声で「あれ、おかしい、おかまじゃない」など平気で指さして話すからです。
<
遠くに外出するには、まだ大勢の人が乗る電車やバスに乗る自信がなくて、車を買うことにしました。それと、着替えや代わりのウイッグなど、車だと持って歩かなくても済むからです。
自動車のディーラーのところに行って、車両の価格だけでなく、登録の費用、保険料、車庫証明の費用など予算をかなり超えることに気づきました。そんな時、法事で会ってから久しぶりに、亡くなった姉の婚約者にばったり出会ったのです。

「珍しいね、こんなところで出会うなんて」
「今度、車を買おうかと思ったんです、でも新車は高くて」
「どんな車が欲しいの?」
「実は、あそこに止まっているような、あの赤い車です」
「あの車?、あれは僕の車だよ」
「前からこの車がいいなと思ってたんです、あまり大きい車だと車庫入れなどが難しそうだから」
「やっぱり姉弟なんだね、車の好みがそっくりだね」
姉の婚約者だった彼は、姉との結婚を前にして、姉も乗れる車に買い替えた。それが、今ディーラーの駐車場に止めてあったのだ。姉が亡くなった今、彼が乗る車としては、赤い車には少し違和感があった。そこで、彼は買い替えを検討しているのだった。
「君の姉さんが乗るはずだった車だから、これでいいなら、君にあげるよ」
「えっ、そんな」
「まだ2年ほどしか載ってないから、車内はきれいだし、エンジンも快調だよ」
ディーラーの店の中で、車を譲ってもらうことに決まった。あとは担当者から、必要な書類の説明を受けて僕の用事は終わった。
「こんなに高価なものを譲っていただくなんて、なんか御礼をさせてください」
「そうだなあ、じゃあ考えてみるよ。君にできそうなことなら、何でもいいかい?」
「僕ができることなら、何でも。兄さんになるはずだった人の頼みなら」
「それなら、車の手続きかすむまで待っててほしい。どこかで、ご飯でも食べながら話そう」
それからしばらくして、二人で赤い車に乗ってドライブということになった。彼からは、僕がハンドルを握って、試乗してみたらという提案に僕も従った。ボタンー押すとエンジンがかかり、音も静かに走り出し、比較的交通量の少ない郊外の道をしばらく走りながら、この車の特徴や運転時の注意などを教えられた。
最近、郊外にもチェーン店が増えているパスタの店に入った、いつもならカルボナーラなどにするのを、和風のパスタにした。女装のために、少しでもカロリーを控えて、ウェストを細くしたいと考えていた。
「実は、さっきの話だけど、何か御礼をしてくれると言ったね」
「僕にできることなら、何でもします、お金はないですけど」
「こんなことを君に頼むのはおかしな話なんだけど、君にしか頼めないことなんだ」
彼の話は、ゆっくり僕を諭すように続けられた。僕はすぐにはOKすることができなかった。帰りは彼の運転で、職員寮まで送ってもらった。
「名義変更が済んだら、業者がここまで届けてくれるから」
「あの、さっきの話ですが・・・」
「すぐに返事できなくてもいいから、たった一度だけ、僕の願いを聞いて欲しい」
彼の運転する車が走り去った、車の走り去る方向を見つめながら、僕は迷っていた。
《申し出を受け入れて》
わたしは、決心した。姉の婚約者だった彼は今でも独身だった。姉と愛し合い、3月には結婚する予定だったが、阪神淡路大震災で姉は命を失った。
それから2年が過ぎても姉の婚約者は、姉との想い出が忘れられないでいる。 そんな彼からの「頼み事」とは、姉のウェディングドレスを着てほしい、できれば姉が望んでいたチャペルで二人だけの結婚式をして、その日だけ花嫁になってほしい、そして記念の写真を撮って姉との思い出を残したいというものだった。
私と姉は、一卵性の双子だった。顔も体つきもそっくりで、違っていたのは、姉が女性で、私が男だということ。だから、ウイッグをつけて少しお化粧をすれば、姉が生き返ったかのように、姉の身代わりができる。
姉が仕立てを依頼していたウェディングドレスは、ドレスカバーに収められて彼の自宅に届けられたまま、花嫁に着てもらうことなく、2年が経過していた。
僕も一度はウェディングドレスを着てみたい、女装者なら一度は着てみたいと憧れるウェディングドレス。それも、チャペルでの挙式まで、経験できるチャンス。
身代わりでもいい、花嫁になってみたい、そう決心した。

僕は、彼に連絡をした、彼の申し出を受け入れると。彼からは、結婚式までに準備をしてほしい、できれば仕事を変わらないかと。
彼の話は、地震のあと居住用のマンション建設には、補助金や低利の融資が受けられる。そこで、壊れた倉庫の跡地にマンションを建てた。そのマンションの事務所に勤めてくれないかと言うもの。
なぜと聞くと、事務員として採用した女性が辞退してしまった、マンションの低層階にはメディカルセンターと言うことで複数の医療機関が入るので、医療に詳しい人が欲しい。それには、今も病院に勤めている僕が適任だと考えたらしい。
「できれば、僕の希望としてはウイッグでなく、結婚式まで髪の毛を伸ばしてほしい」
「そんな、今の職場では髪を長く伸ばすなんて難しい」
「だから、この際、僕の事務所で勤めてみないか、できれば脱毛やエステにも通い、女性として結婚式に臨んでほしい」
清掃のパートの人が早朝の作業が済んで帰ると、彼の事務所では、私と彼の二人きりだから髪を伸ばしていても誰にもわからないからと説明があった。彼の指示する通りに、2月の末から会社を辞めた。
マンションの事務所は、4階にあって見晴らしもよく、間違って入ってくる人もいない。彼からは、女子事務員用のスーツを渡され、髪の毛を伸ばし始めた。それと彼には内緒で、婦人科に通った。今まで試してみたかった女性ホルモンについて相談をした、
女子事務員として働いていること、好きな男性がいることなどを話して、女性ホルモンを服用することになった。自分では、「結婚式まで」のつもりで治療に通った。 もともと長めの髪にしていたので、半年ぐらいで髪の毛も伸びて、肩まで届くようになった。脱毛と女性ホルモンも効果があったのか体毛も目立たず、もともと髭は薄いほうだったがさらに目立たなくなった。恥ずかしいことに、乳房が膨らみはじめた。
「もともと男性ホルモンが少ないので、効果が早く出ましたね。」と担当の医師から言われた。
「それと、例は少ないのですが、喉ぼとけもなくて、珍しい」
「先生、喉ぼとけがないのですか?」
「喉ぼとけが無いというか、女性のような形で目立たないのです」
学生時代から家に電話がかかってくると母や姉の声と間違われることがあり、医師から説明を受け納得した。診察後、事務所にもどると、彼から「結婚式は10月」と伝えられた。
《つづく》 続きは、姉のウェディングドレスで、花嫁に【2】
ホームページにもどる
第1章
《 地震の朝》《女装での墓参り》《一度だけの願い》
第2章
《 身代わりの花嫁》《初夜を迎える》《女の悦びに満たされて》
《地震の朝》
駐車場に車を止めて、お寺の門をくぐり抜けると、広い境内に入る。石畳を歩き、本堂の裏手にある墓地にお参りをするのです。今は”令和”ですが、もう過去の出来事になってしまった ”平成” のあの日のことを、昨日のことのように思い出すのです。
1月17日、午前5時46分、私は激しい揺れに目覚めた。ゆらゆらと揺さぶられるような動きを感じて、見上げると蛍光灯が揺れていたのです。布団の中にいる私は、大きな揺れで建物が壊れるのではないかと不安を感じながら、地震の揺れが収まるのを待っていたのです。
かなり長い時間揺れていたように感じました。大きな揺れが収まり、しばらくすると廊下で人の声がしていたのですが、その時の私は急いで外に飛び出すことができなかったのです。なぜなら、ひとに見られては困るような姿だったのです。
地震前夜の私は、薄くメイクをしてセミロングのウイッグを被り、下着女装を楽しんでいたのです。右手を激しく使い、下腹部のあの部分を刺激し続けた。いつものように、C社のカメラを三脚にセットして、部屋のピンクのカーテンを閉じると、そこには女の子しかいません。

「ああ、なんて悩ましい下着なの」
「男の人に、何をされるかわからないわよ」
「ああ、あっ、そこは、だめっ」
「こんなに透ける下着で、誘っておきながら」
「ああっ、それ以上は、しないで」
「そんなこと言っても、本当は・・・Hして欲しいんだろ」
「あっ、だめよ、写さないで」
「こんな恥ずかしい下着で、誘惑しておいて」
薄いカード状のリモコンを手にして、シャッターを切る。
「もっと、恥ずかしがってごらん」
「ダメッ,写さないで」
リモコンのボタンを押すと同時に、ストロボが光り、その後すぐにポーズを変えてシャッターをきる。
まだ、デジカメのなかった当時は、あの部分は露出できなかった。
よほどの写真マニアで自分で現像するのでなければ、カメラ店で現像してもらうしかなかった。
仕上がった写真を店で「こちらでよろしいですか?」と毎回のように聞かれるので、代金を支払うとさっと店を出た。写真の女の子と、自分を見比べられないためにも。
「今夜は、セクシーすぎ、ひどくHっぽい」
「あなたのためよ、恥ずかしいのをがまんしてるのよ」
「本当に、がまんしてたのか、好きなくせに・・・」
「着る時も、はずかしいのよ」
「あっ、そんなとこ、触っちゃ」
「触った方がいいんだろ、女の下着で、誘っておきながら・・・」
「アアーン、ダメッ。でも、やめないで、オネガイ」
そして、鏡に映る自分を眺めながら、何度もオナニーで自分自身を慰める。その行為のあと、そのままの姿で寝てしまったのです。前の夜、1月16日のことでした。
激しく揺れた瞬間、私はまだ布団の中でした。ゆらゆらと揺さぶられるような動きで、机の上のものだけでなく、机そのものがずれ動き、メイクに使った化粧品が、飛ぶように投げ出され、ベッドも大きく揺れていたのです。
大きな揺れで、建物が壊れるのではないかと不安を感じながら、布団の中にいる私は、地震の揺れが収まるのを待っていたのです。かなり長い時間、揺れていたように感じました。しばらくして揺れは収まったのですが、まだ外は暗くて、外の様子もわかりませんでした。
そのあと、電気が消えましたが、すぐに灯かりがともりました。私は、セミの羽のように薄いボディスーツに、透けるようなスキャンティー、ガーターストッキングという姿で寝ていたので、そのままの姿で廊下に出るわけにもいかなかったのです。
私が住んでいるワンルームマンションは、男性の入居者が多く、女装した自分の姿を見られたくなかったのです。水道の水が出たので、急いで身につけていた女性の下着を脱いで、メイク落としで洗顔してからブリーフに履き替え、トレーナーを着て、ズボンを穿いたのです。
かなり大きな揺れだったから、テレビで地震情報が放送されているかなとスイッチを入れると、まだブラウン管式だったテレビに映像が映りました。近畿地方で、大きな地震があったとアナウンサーが話している。
「詳しいことは、分かり次第お伝えします」と繰り返していた。
しばらくして、気象情報の時間になったが、神戸では震度6と報じていた。まだ学生だった私は、研究室での実験など深夜までかかることがあり、自宅から離れた大阪で暮らしていた。
自宅は大丈夫かなと心配だったが、当時は携帯電話もなく、テレビに映し出される映像にくぎ付けになっていた。 大阪は震度5と報じられていた、神戸の被害がテレビに映し出され、三宮のビルがゴロンという感じで倒壊していた。
さらに阪急電車の伊丹駅が倒壊し、何人かが亡くなったと報じていた。ジャンバーをはおり、近くの公衆電話に走った、テレフォンカードを差し込んで自宅の番号にかけてみたけれど、全く通じない。
電話の故障かと、バイト先に電話すると「大丈夫か、大きな地震やったな」と店長の声が聞こえた。
5キロほど離れた場所には通じた、しかし、神戸の自宅や友人宅にも電話したが、全くつながらなかった。 駅前まで行くと、電車は動いていなかった。
改札口には、地震による影響で、運転を見合わせていますと張り出されていた。電車をあきらめてワンルームマンションまで戻り、バイクに乗って神戸の自宅に向かった。尼崎あたりから、倒壊した建物や傾いた家があり、人々が公園などに避難していた。
西宮から先には進みにくくなり、信号がまったく点灯していない、道路はあちこちで渋滞し始めていた。芦屋に入ると、国道のアスファルトがめくれあがり、亀裂やゆがみだらけで、道路が波を打っている状態だった。
喉が渇いたが、コンビニも店内は真っ暗で開いていない、停電のため自動販売機も使えなかった。 自宅付近に近づいたとき、あたりの状況のひどさに愕然とした。1階に車庫のある家は、上から押しつぶされたように家屋の2階以上の部分がのしかかり、1階部分や車も押しつぶされていた。
大きなお屋敷の塀が倒れ、まるで、石畳の舗道のようになっていた。その上を人が歩いていた。 自宅は地震の揺れのせいか、二階が一階を押しつぶすように壊れていた。 自分の家だけでなく、昭和に建てられた近所の家も倒壊していた。
母はどこか、姉はどこか、倒れた建物の中に入ろうとしたが、大きな余震があり「危ないから中に入るな」と止められてしまった。 それでも、壊れた自宅のがれきを取り除き、大きな声で母の名前を呼び、姉の名前を呼んだが、何の返事もなかった。
冷え切った神戸の街、ライフラインも遮断され水もなく、乾ききったのどを潤すこともできず、ときどき襲ってくる余震で建物がさらに崩れ落ちていくのを、どうすることもできなかった。
《女装での墓参り》
今日は、5月17日、主人を送り出してから、ひとりで来ました。大震災の時、東京に出張中で助かった父の命日でもあるのです。母や姉の分も合わせて、この日にお参りすることにしているのです。
大震災の時、出張中で助かった父も、私が結婚してから、思いがけず早く亡くなりました。母と姉が亡くなってから、5年が過ぎた後に倒れて亡くなったのです。

お寺の駐車場はがらんとしていて、駐車している車も少なく、すぐに車を止めました。ここは神戸ではなく、被災地から遠く、平日の午後ということもあって、ほかにお参りしている人もいないようです。
ドアを開けて、車から降りたった今日の私は、女装しています。
なぜ?女装しているのか・・・ 女装クラブに行くわけでもなく、家族のお墓にお参りするのに、なぜ、女装しているのかについては、今から過去にさかのぼりお話します。
もう、今から25年も前のことです、病院の宿直が終わり、自分の職員寮に戻った。震災から2年が過ぎていた。 震災で自宅が倒壊したために、卒業後すぐに、僕は職員寮のある病院に就職した。
看護師などの職員寮に比べると、少し狭いけれど、1LDKの部屋は以前よりも広く、浴室と大きなミラーのある洗面所があって、僕には好都合だった。震災で母と姉を失い、心の寂しさを紛らわすために、壊れた家から取り出した母や姉の遺品の中から、父には内緒で母や姉の衣類を僕の部屋に運び込んだ。
ファンデーションでメイクして、アイブローで眉を描き、ルージュを塗ってからウイッグを被ると、鏡の中には母や姉とそっくりな自分がいることに気づいた。

寂しさから、母や姉の肌着やブラウス、スカートなどを身に着けた。
母や姉に会いたくなったら、女装して鏡に映る自分を見つめて会話した。
ひとりで二役を演じながら、母や姉と想い出を語りあったり、仕事のことでどうすればいいか、相談したりしていた。
時には、セックスの話になって、父さんとはどんなふうに愛し合っていたのかを母に尋ねたり、姉には婚約者がいたのだが、どこまで経験したのかを尋ねたりした。
ひとりでエッチな話題を話しながら、ショーツの中で硬くなってきた部分を触れていた。
「まあ、いけない子ね、もうそんな風になってしまうなんて」
「エッチなことばかり聞くから、そう、やっぱり大人になってきたのね」
「じゃあ、こんな風にしてあげようか」
「ダメだよ、触っちゃあ」
「そうね、彼女にしてもらったら」
「もう姉さんったら、そんなこと彼女に頼めないよ」
「彼女とはどこまで進んだの、結婚まで妊娠させちゃだめよ」
「彼女は、・・・妊娠なんかしないから」
「じゃあ、避妊には気を付けているのね、ゴムかピルを使っているの?」
「違うよ、コンドームやピルなんか使わなくても、絶対!・・・妊娠なんかしないから」
「まさか、ニューハーフ?、お〇んちんのある男の娘なの?、母さんは心配だわ」
「大丈夫だから、心配しなくていいよ」
現実にはありえない会話で、僕は興奮して、ひとりで自分自身を慰める行為に夢中になってしまうのでした。
「ああ、きもちいいよ、僕のお〇ん〇んがこんなに堅くなって」
「このままじゃ、かわいそう、こうしてあげる」
「もう、ガマンできないよ、ああっ」
「いきそうなの、いいわ」
「ヒトミ・・・、いくよ、いくっ」
「ヒトミのこと思いながら、いってね」
「ああっ、ヒトミ、いくよっ、いくっ、アアー」
今の彼女は、女装した自分なのです。自分のことを女の子のように「ヒトミ」と呼んで、、一人二役の行為は終わるのです。
《一度だけの願い》
いつしか室内だけの女装から、外出するようになりました。はじめは、夜遅く、近所で人通りの少ない時間にハイヒールを履いて女装散歩を楽しんでいました。
男の時には気が付かなかった、ハイヒールの「コツコツ」という響きが意外に大きく、自分の存在を必要以上に周囲に気づかれてしまうのではないかと心配でした。
お店のショーウインドウに映る自分の姿を見て、ウイッグの具合や、バッグの持ち方に不自然さがないか、自分にばかり注意が向いていました。そのうち、ふくよかなバストやスカートから伸びているストッキングに包まれた太ももに、すれ違う男性の視線が、向けられていることに気づきました。
女装で街を歩くときには、ブラのカップもCまでにして、あまりスカートも短くしないようになりました。不自然に周囲に目立つ、ミニスカートや大きすぎるバスト、濃い化粧だと、女子高生など、大きな声で「あれ、おかしい、おかまじゃない」など平気で指さして話すからです。
<
遠くに外出するには、まだ大勢の人が乗る電車やバスに乗る自信がなくて、車を買うことにしました。それと、着替えや代わりのウイッグなど、車だと持って歩かなくても済むからです。
自動車のディーラーのところに行って、車両の価格だけでなく、登録の費用、保険料、車庫証明の費用など予算をかなり超えることに気づきました。そんな時、法事で会ってから久しぶりに、亡くなった姉の婚約者にばったり出会ったのです。

「珍しいね、こんなところで出会うなんて」
「今度、車を買おうかと思ったんです、でも新車は高くて」
「どんな車が欲しいの?」
「実は、あそこに止まっているような、あの赤い車です」
「あの車?、あれは僕の車だよ」
「前からこの車がいいなと思ってたんです、あまり大きい車だと車庫入れなどが難しそうだから」
「やっぱり姉弟なんだね、車の好みがそっくりだね」
姉の婚約者だった彼は、姉との結婚を前にして、姉も乗れる車に買い替えた。それが、今ディーラーの駐車場に止めてあったのだ。姉が亡くなった今、彼が乗る車としては、赤い車には少し違和感があった。そこで、彼は買い替えを検討しているのだった。
「君の姉さんが乗るはずだった車だから、これでいいなら、君にあげるよ」
「えっ、そんな」
「まだ2年ほどしか載ってないから、車内はきれいだし、エンジンも快調だよ」
ディーラーの店の中で、車を譲ってもらうことに決まった。あとは担当者から、必要な書類の説明を受けて僕の用事は終わった。
「こんなに高価なものを譲っていただくなんて、なんか御礼をさせてください」
「そうだなあ、じゃあ考えてみるよ。君にできそうなことなら、何でもいいかい?」
「僕ができることなら、何でも。兄さんになるはずだった人の頼みなら」
「それなら、車の手続きかすむまで待っててほしい。どこかで、ご飯でも食べながら話そう」
それからしばらくして、二人で赤い車に乗ってドライブということになった。彼からは、僕がハンドルを握って、試乗してみたらという提案に僕も従った。ボタンー押すとエンジンがかかり、音も静かに走り出し、比較的交通量の少ない郊外の道をしばらく走りながら、この車の特徴や運転時の注意などを教えられた。
最近、郊外にもチェーン店が増えているパスタの店に入った、いつもならカルボナーラなどにするのを、和風のパスタにした。女装のために、少しでもカロリーを控えて、ウェストを細くしたいと考えていた。
「実は、さっきの話だけど、何か御礼をしてくれると言ったね」
「僕にできることなら、何でもします、お金はないですけど」
「こんなことを君に頼むのはおかしな話なんだけど、君にしか頼めないことなんだ」
彼の話は、ゆっくり僕を諭すように続けられた。僕はすぐにはOKすることができなかった。帰りは彼の運転で、職員寮まで送ってもらった。
「名義変更が済んだら、業者がここまで届けてくれるから」
「あの、さっきの話ですが・・・」
「すぐに返事できなくてもいいから、たった一度だけ、僕の願いを聞いて欲しい」
彼の運転する車が走り去った、車の走り去る方向を見つめながら、僕は迷っていた。
《申し出を受け入れて》
わたしは、決心した。姉の婚約者だった彼は今でも独身だった。姉と愛し合い、3月には結婚する予定だったが、阪神淡路大震災で姉は命を失った。
それから2年が過ぎても姉の婚約者は、姉との想い出が忘れられないでいる。 そんな彼からの「頼み事」とは、姉のウェディングドレスを着てほしい、できれば姉が望んでいたチャペルで二人だけの結婚式をして、その日だけ花嫁になってほしい、そして記念の写真を撮って姉との思い出を残したいというものだった。
私と姉は、一卵性の双子だった。顔も体つきもそっくりで、違っていたのは、姉が女性で、私が男だということ。だから、ウイッグをつけて少しお化粧をすれば、姉が生き返ったかのように、姉の身代わりができる。
姉が仕立てを依頼していたウェディングドレスは、ドレスカバーに収められて彼の自宅に届けられたまま、花嫁に着てもらうことなく、2年が経過していた。
僕も一度はウェディングドレスを着てみたい、女装者なら一度は着てみたいと憧れるウェディングドレス。それも、チャペルでの挙式まで、経験できるチャンス。
身代わりでもいい、花嫁になってみたい、そう決心した。

僕は、彼に連絡をした、彼の申し出を受け入れると。彼からは、結婚式までに準備をしてほしい、できれば仕事を変わらないかと。
彼の話は、地震のあと居住用のマンション建設には、補助金や低利の融資が受けられる。そこで、壊れた倉庫の跡地にマンションを建てた。そのマンションの事務所に勤めてくれないかと言うもの。
なぜと聞くと、事務員として採用した女性が辞退してしまった、マンションの低層階にはメディカルセンターと言うことで複数の医療機関が入るので、医療に詳しい人が欲しい。それには、今も病院に勤めている僕が適任だと考えたらしい。
「できれば、僕の希望としてはウイッグでなく、結婚式まで髪の毛を伸ばしてほしい」
「そんな、今の職場では髪を長く伸ばすなんて難しい」
「だから、この際、僕の事務所で勤めてみないか、できれば脱毛やエステにも通い、女性として結婚式に臨んでほしい」
清掃のパートの人が早朝の作業が済んで帰ると、彼の事務所では、私と彼の二人きりだから髪を伸ばしていても誰にもわからないからと説明があった。彼の指示する通りに、2月の末から会社を辞めた。
マンションの事務所は、4階にあって見晴らしもよく、間違って入ってくる人もいない。彼からは、女子事務員用のスーツを渡され、髪の毛を伸ばし始めた。それと彼には内緒で、婦人科に通った。今まで試してみたかった女性ホルモンについて相談をした、
女子事務員として働いていること、好きな男性がいることなどを話して、女性ホルモンを服用することになった。自分では、「結婚式まで」のつもりで治療に通った。 もともと長めの髪にしていたので、半年ぐらいで髪の毛も伸びて、肩まで届くようになった。脱毛と女性ホルモンも効果があったのか体毛も目立たず、もともと髭は薄いほうだったがさらに目立たなくなった。恥ずかしいことに、乳房が膨らみはじめた。
「もともと男性ホルモンが少ないので、効果が早く出ましたね。」と担当の医師から言われた。
「それと、例は少ないのですが、喉ぼとけもなくて、珍しい」
「先生、喉ぼとけがないのですか?」
「喉ぼとけが無いというか、女性のような形で目立たないのです」
学生時代から家に電話がかかってくると母や姉の声と間違われることがあり、医師から説明を受け納得した。診察後、事務所にもどると、彼から「結婚式は10月」と伝えられた。
《つづく》 続きは、姉のウェディングドレスで、花嫁に【2】
ホームページにもどる
コメント