幼い頃に過ごしたふるさとを家族の転勤のために離れて、幼なじみの面影も、それは遠い過去の思い出になってしまう。仕事に行き詰まり、今ひとりの青年が自分のふるさとを訪れた時、美しい幼馴染が疲れた彼を優しく迎え入れたなら、恋に落ちてしまうかも。



《ハネムーンの花嫁》

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 教会の挙式の後、親族や友人に見送られてニュージーランドへのハネムーン。僕の隣の座席には、初々しい花嫁が座っている。かすかに、甘く悩ましい香がする彼女の手を、僕は握り締めた。

 ゆったりくつろげる落ち着いた雰囲気で、前後は空席になっていた。 花嫁はウェディングドレスから、今は白いドレス姿に着替えていた。

 パールのネックレスが胸元に輝き、すらりと伸びた足の先にはパールホワイトのハイヒール。ストッキングには、ところどころにリボンのような模様が入っている。 白いドレスの彼女の身体に触れると、ピクンと反応する彼女。

「なあに」と聞いてくる。  さらに僕は、ドレスのスカートの中に手を入れて、ガーターストッキングの感触を楽しむ。ストッキングの端、太ももの感触を楽しんでいた。

「おねがい、毛布をかけて」
「どうせ今からは、乗務員も来ないよ」
「だって、恥ずかしい」

 暖かい毛布の下で、僕の手は乱暴に彼女を求めた。太ももの感触を楽しんだ後、ショーツに包まれた彼女の秘部を優しく撫でさすった。

 今までの刺激だけでも感じていたのか、ショーツはその下にある部分が潤い始めていた。 人差し指と中指でさらに、刺激をあの部分に集中した。

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「もうだめよ、こんなところではいや」
「誰にもわからないよ、もうべとべとに濡れてるよ」
「いやっ、言わないで」
「恥ずかしがることはないよ、身体のほうが素直なんだね」

「じゃぁ、もう少しだけね」
「あと30秒、僕のために付き合って」

 しかし、彼女は30秒とは持たなかった。僕の指先の愛撫で頂上に達して、のけぞり身体からすべての力が抜けてしまったかのようにシートに横たわるのだった。

 荒い吐息の彼女の下腹部はまるで桜の花が満開になったように、ピンク色が少し赤くそまり、彼女の秘部から湧き出たものを、お絞りで優しく拭った。

 僕の愛撫で感じてくれている彼女がいとおしく、僕は彼女を大切にしていきたい。結婚しても、子どもを産むことができない彼女だけど、こうなることが幼い頃からの僕達二人の夢だったのかもしれない。

 生まれたときは男だった彼女、でも心から僕のことを愛してくれる彼女が好きだ。この旅行の間にも、二人の思い出をつくり共にこれからの人生を歩んでいく彼女と幸せな家庭を築きたいと、そう願うのです。

飛行機の中で、僕は1年前のことを思い出していた。


《お前らはクビだ!》

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 村上課長と二人、重い足取りで僕は大阪難波の高丸屋百貨店の階段を降りていた。不況だというのにその店は客であふれていた。仕入れた商品も、すぐ売り切れ、追加を大慌てで用意したという。

 それに比べて僕の勤める中国地方にある百貨店は、人気商品が少ないためにセールしても売れ残ってしまった。

 僕の名前は「渡辺金治(わたなべかねはる)」。学生時代から「なべさん」と呼ばれていて、入社して6年すぎた今では得意先からも”なべさん”と声をかけられるようになっていた。

 僕がいま所属している商品開発課は、地酒、家具、独自仕様の肌着など次々と提携を進めてきた。 それだけに、商品開発課ができたあと、社長からの期待は大きかったらしい。『高丸屋ブランドの衣料品を、僕の百貨店でも取り扱えるように』、という社長からの直接の命令があった。

 村上課長の話では、交渉に失敗すれば首だと社長から言われたという。けれども、高丸屋の専属のデザイナーや企画部門の反対があり、交渉は難しく断られそうだった。

 その経過を本部に報告すると、「会社が倒産してもいいのか? お前らは首だ」という厳しい答えが返ってきた。


「なべさん。次の交渉はあさってだから、明日は一日休みということににしよう」
「じゃあ、村上課長、もう一度、頑張ってみますか」
「そうだ、あさってまたがんばろう」

 課長は一度広島に帰り、また大阪に戻ってくるということだった。僕は、大阪に残ることにした。 大阪の2月は寒い、吹き抜ける風は冷たく、僕は一人で夕食をすませるとホテルに帰った。

 その途中、「兄さん、千円にしとくわ」と言われて、裏ビデオと思われるDVDを買った。
 胸の大きい女が自分のスカートの中に手を入れ、せつなく喘ぐような声をだしている。スカートを脱ぎブラジャーの肩ひもをずらして、豊満な乳房を左手で揉みしだくようにしながら、一方の手を紫色のショーツの中に入れあの部分を指先でマスターベーションしている。

 女の喘ぎ声が高く息遣いが荒くなり、もう絶頂を迎えんばかりになった時、女の背後から男がやってきて、女の手に自分のものを握らせるのだった。

 まったくぼかしがないため、男のものが赤黒く光っているところもくっきりと見えていた。
「さすが大阪だな、こんなDVDが2枚で、1000円か」と僕は思った。

 実際は、さっき二枚で千円にまけてもらったのだ。 映像の画面を見ていると、男がフェラをさせながら女の胸を揉んだり、下半身にいやらしい手つきで触る。

 次はいよいよ男と女が絡む場面になった。女に男が覆い被さるように後背位で、固くなったものを挿入していく。女は喘ぎ声を一段と高くあげ、男の動きに合わせて腰をつかうのだった。


 しかしそこからが違った。男が片手を女の秘部に伸ばしたかと思うと、女にはないはずのものを男が握り、さらに摩擦するのだった。女はひとしきり高い声を上げ、射精して白濁を放った。

 そして男はそこから動きを速めて、絶頂に達したのか、女の下腹部に迸らせた。その時、女の下半身にはエレクトしたものが、くっきりと映っていた。

 僕にとって、初めて見る映像は刺激的だった。テレビで、ニューハーフなどを見たことはあった。バストもあり陰茎のある女性という奇妙な関係でのシーンに、すっかり興奮してしまった。

 そしてもう一本も見続けた。普段はオナニーなど、たまにしかしないのに、その夜は我慢できずに、2度もしてしまった。


《夢うつつ》

「ああー、もう待てないわ。早く来て」と女が甘くささやくように誘う。
「ほんとうにいいのか? 俺だってもうこれ以上抑えきれない」
「いいのよ、あなたなら。わたしを好きなようにして」
「君のことが好きだ。愛してるよ」
「ああー、あなた。わたしもよ」

 手を伸ばして彼女の胸を撫でまわし、唇で乳首の先をかすかに触れるようにそっと刺激しながら、もう片方の手で腰から下を探るような微妙な動きをした。
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 そして彼女のヒョウ柄のショーツの中に手を入れた。ショーツを脱がせ、かわいく硬直した彼女のものを優しく握り、口の中に含んだ。

「ああっ、だめっ、あなたの口を汚してしまうわ。] 
「愛しているんだ。君がすきなんだ」
「アアッ、ごめんなさい」
「イキそうなんだね」
「ああー、もうだめっ。いいのよ、そう、ああーっ」

 彼女は、白いものをほとばしらせた。彼女の呼吸が落ち着いた時、そのあと二人はひとつになって、彼女の中で僕はもうすぐはじけそうだった。

 どさっという音と、床に自分が落ちた痛みが同時だった。今のは夢かと考えながら、僕はつけっぱなしのテレビのスイッチを消して、腰をさすりながらベッドに入りなおした。

 ベッドに入ってもなかなか寝つけない。夢の中の女性が誰かに似ていたような気がするのだが、どうしても思い出すことはできなかった。

 明日でいよいよ28歳か。 両親を亡くして独身の僕にとって、2月14日という誕生日はただの通過点でしかなかった。なんとなく幼い時に暮らしたあの町に行って見よう。そう思いながら寝入ってしまった。


 翌日は風もなく、穏やかな天気となった。父親の転勤で、小学校3年の新学期の直前に引越した町。あれから20年も来たことがなかった町に、僕はやってきた。

 春休み中だったのでクラスのお誕生会やお別れ会もなく、新しく引越して行った社宅には、子ども会もなくボール遊びも禁止されていて、つまらなかったことなどを思い出していた。

 広かった小学校の前の道も、大人になった僕にとっては狭い通りだった。高かった幼稚園の塀も、肩までしかない。幼稚園から50メートルほど離れたところに自分の住んでいた家があったはずだが、そこには鉄筋のビルが建っていた。

 庭には桜の木があり、垣根で囲まれた庭の中で隣の清香ちゃんとよく遊んだ。その庭の一部分だけがわずかに花壇として残っていた。平屋の家などほとんどなく、ビルやマンションになっていた。

 むかしよく行った駄菓子屋も、コンビニに変わっていた。コンビニの店長は昔の駄菓子屋の息子さんだった。

「このあたりは新幹線の工事で立ち退きなんかあって、古くからの人はいなくなったね」
「僕の隣のおうちの方は、どこかに引越されたんですか」
「さぁーねぇ、お宅のようにきちんとした挨拶もされずに、いつのまにか引越されたんでねぇ」

 コンビニを後にして、昔よく遊んだ線路わきのポプラの木のところまで歩いて行った。真冬の午後というのに、コートも要らないほど暖かい午後の日差しだった。ポプラの木は前と同じ場所にあった。よくここで近所の子ども同士で遊んでいたことを思い出した。

「金ちゃん、金ちゃんじゃない!」
そう呼ぶ声に振り向くと、髪の長い女性がいた。
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「渡辺ですけど」と僕が返事をすると、
「だから、金ちゃんでしょ」
その女性が、不満そうに言った。

僕が金ちゃんと呼ばれていたのは、この町にいた時だけだった。
「まさかひょっとして清香ちゃん、ごめん清君かな?」
「そうよ。隣の清よ。でも清香と言われる方がうれしいわ」


 お隣の夫婦は、清君を幼稚園に行くまで、ずっと女の子として育てていた。上の二人の子どもが、二歳にならずに亡くなったので、占いの先生に教えられてそうしたのだ。そして彼を小さい頃から「清香ちゃん」と呼んでいた。近所の誰もがそう呼んでいた。

 清香ちゃんは、小さい頃は本当に、女の子の服や着物を着せられていた。女の子のように弱かったので、僕がいつも近所の悪がきから清香ちゃんを守っていた。清香ちゃんと僕は仲良しで、幼稚園でも、いつも一緒に遊んでいた。

「金ちゃん、今日の約束覚えてたの? タイムカプセルのこと」
「タイムカプセルって、花博の時の?」
「ちがうわよ。金ちゃんが引越してもまた会おうと約束したじゃない」

「……思い出したよ。ポプラの木の根元に埋めたのを」
「思い出した? 金ちゃん」
「30年は長いから20年後、掘りだそうって約束したんだ」

「確か、2月14日午後3時に決めてたのかな?」
「そう金ちゃんの誕生日、金ちゃんが産まれた時間よ」

「二人だけで、願い事を書いて、それがかなったか確かめようってね」
「でもポプラの木の周りはコンクリートだから、もう掘り出せないね」

 二人はポプラの木を後にして、彼女の案内する店に入った。

「金ちゃんが転校してから、すぐにわたしはいじめにあうようになったの。3年生からは学校にも行かなかったのよ」
「そうか。いじめにあって、学校に行けなかったんだね」
「中学になっても、入学式に行っただけ」

「金ちゃんがいなくなったあと、誰もわたしのこと守ってくれなかったの」
「先生やご両親に、相談したの?」
「学校を休むなと、父までが、わたしを殴ったりするから、とうとう両親は離婚してしまったの」
「そんなことがあったんだね」
「その後すぐに母が亡くなって、叔母に引き取られてから洋裁の専門学校に通うようになったの」
「でもどうして今でも、清香ちゃんは女の格好なんかしているのかな?」

「不登校で学校には行かなかったけど、外に出かけた時に、男の子に見つけられていじめられていたの」
「そんなことが、あったら出かけることも出来ないね」
「それで、外に出かける時は、分からないように女の子の格好をしていたの」
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「それから、ずっとだったの」
「中学の時もずっと。叔母の経営する専門学校では、すっかり女子学生だったのよ」

「ところで、今はどんな仕事をしているのかな?」
「専門学校の後、パリに行ったりして、デザインの勉強を続けてたの」
「それって、凄いことだね」
「パリで認められてから、日本に帰ってデザイナーとして仕事をしているの。家の中だけではなくて、外でもわたしがデザインしたドレスやブラウスなんかを着ているのよ」

彼女の話や自分の仕事の話をしているうち、夜も更けてきた。
「金ちゃん、今日はわたしの家に泊まっていって」
「僕も、宿はとってあるんだ」
「そんな水臭いこと言わずに、今夜はもっと飲みたいからうちに来て」


 僕は酒の酔いもまわっていたし、殺風景な宿に帰るつもりはなかった。
清香ちゃんは、立派なマンションに住んでいた。
僕はふらふらしながらも上着を脱ぎ、明日は大事な交渉があるので、なんとかシャワーをあびてベッドに横たわった。

《まぼろしの一夜》
 酒に酔っていたため、ベッドで少し眠っていたのか、僕は夢を見ていた。髪の長い女性が僕の手を握っている。そして、甘い香りがする女性は、僕のすぐ隣にいた。彼女の手は、僕の身体を抱きかかえるようにしていた。


「幼いころ、お姫様ごっこをしたことがあったでしょ」
「悪者から君を助けて、お姫様になった君と昼寝をしたことがあったね」
「寝ているあなたにキスをしたことがあるの、覚えてる?」
「そんなこともあった、なんとなく覚えてる」

「あなたを愛してるわ。お願い、好きにさせて」
「えッ、僕たち、男だけど、」
「お願い、わたしを今夜は女にして、好きなようにして」

彼女が身につけているのは、黒い部屋着と悩ましく透けるようなショーツだけ、僕は彼女を抱き寄せた。白く柔らかな肌、しなやかで丸みを帯びた彼女、今は女性にしか見えない彼女と抱き合った。

「ああ、君は僕のお姫様だった」
「私は、あなたがずっと好きだった」
「幼いころ、お姫様ごっこをした時、きみは本当に女の子のようだった」

「スカートの中に、女の子用の下着を穿いていたでしょ」
「寝ている君のあそこを触っていたら、硬くなっているのがあって」
「そう、お互い触りっこしたこともあったわね」

「金ちゃん、今夜はわたしを抱いて、オネガイ」
「今夜は、清香ちゃんは僕のものだ、愛してるよ」
「ああー、あなた。わたしもよ」

僕が手を伸ばし、膨らんだ彼女の胸にキスをしたあと、唇で乳首の先をかすかに触れるように刺激をした。
「ああー、とってもいいわ」
「もっと感じてもいんだよ」
形の良い乳房は柔らかく、両手で揉みしだきながら、乳首が硬くなるのを指先で確かめ、乳首を吸い唇を這わせた。
「ああー、いいわ」
「そうかい? もっと感じてもいんだよ」
「あー、だめっ。あなた」

その時、僕は彼女のものを探したが、そこには小さな突起しかなかった。その小さな突起には割れ目があり、それを指先で摘まんだ。僕は身体を下にずらし、さらに、指先だけで微妙な刺激を与え続けた。
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「あー、だめっ」
 清香ちゃんは身体をのけぞるようにしていた。

 なおも、僕はそこにあるはずの棒状のものを探そうとしたが、ちいさな突起の下には、割れ目というか指が何本かはいる部分があるだけ。
「あれっ、ここは?」
「留学中に手術したの、あなたと結ばれるために」

 これが夢ではなく、現実のものだということがわかってからも、下腹部にある彼女の小さなペニクリへの愛撫を続けていた。
「ああっ、だめっ、あなたの指がすごく感じるの、ああっ、そんなにしたら」
「こうしたら、いいんだね、今度は口でも、してあげるよ」
「ああー、もうだめっ」
「イッテも、いいからね」
「いいの、そう、ああーっ」

 彼女、いえ清香ちゃんは、最後には僕の口と舌の刺激で、絶頂を迎えていた。そしてその夜は、清香ちゃんの女性になった部分に、やさしく挿入した。女性になった清香ちゃんと僕は、初めてひとつになって結ばれた。

 翌日の朝。目覚し時計が無くて、寝過ごしてしまった。僕があわてて起きると、メモがあった。
「用事があるので先に出ます。部屋の鍵は、今夜返してください」


《二人のタイムカプセル》

 なんとか間に合い、村上課長と約束の時間に、高丸屋を訪問した。10時の約束だったが、相手側の都合で緊急会議が入ったということで、1時間待たされることになった。

「なべさん、どうも相手の態度からして駄目かもしれんねぇ」
「課長こそ、今から弱気になってちゃ、勝ち目はないですよ」

 11時が過ぎて、しばらくして高丸屋の企画部門の重役が来た。そして、こちらの条件では契約できないと言った。ただし、高丸屋側の条件をのめるなら検討するとのこと。

その条件というのが、
〈1〉商品二関して、高丸屋の専属デザイナーの指導を受けること。
〈2〉専属デザイナーの補佐的な立場として、渡辺金治を専任とすること。
〈3〉デザイナーの宿舎を準備すること。発表前のデザインの機密性が守られる場所。※できれば、ホテル等でなく、専任の担当者の住宅の部屋を自由に使えるようにすること。
〈4〉ロイヤリティーやデザイナーの報酬は、別途協議する。

即答するようにと企画部門の重役は、厳しい口調だった。

 さっそく本部に課長が連絡をしたら、その条件なら良い、住居および専任社員は渡辺に任せるとのことだった。

 契約もまとまり、高丸屋の重役とも握手を交わしている時だった。 事務所の奥から、この業界では有名な越田ヒロコ先生が清香ちゃんを連れて現れた。越田先生が、お帰りということで挨拶をした。

「越田です、高丸屋のデザイナーをしている清香をよろしく。結構指導は厳しいですよ」 「清香です、こんどお手伝いしてくれるのは渡辺さんあなたね。よろしく」

 結局のところ、条件を受け入れるかどうかは、僕にかかっていた。一人暮しにしては、広い家に住んでいるということで、 清香ちゃんが、僕の家を広島での宿舎にすることになった。

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 広島に帰ったら、部屋の片付けを、課長も手伝うとのこと。


生前、母が使用していた二間続きの部屋が南向きで明るく、 清香ちゃんの仕事部屋に提供することにした。

 2月15日の夕方、僕はデザイナーの清香ちゃんと打ち合わせがあるという理由で、課長と別れて清香ちゃんの部屋に向かった。

「今日はありがとう、清香ちゃんのおかげで首にならずにすんだよ」
「昨日は黙っていてごめんなさい。金ちゃん、怒ってない?」
「ううん、清香ちゃんと一緒に仕事ができると思うと、うれしいよ」

< 「本当にそう思ってくれてるのかな。じゃ、これを見て」
 清香ちゃんが差し出したものは、二人が20年前に埋めたカプセルだった。

 清香ちゃんは、毎年2月にその場所を訪れていた。その場所が、昨年コンクリートで固められることを知って、掘り出しておいた。

 いま、二人が開けた中から出てきた紙が2枚あった。
「金治は大きくなったら、お店をして、清香ちゃんといっしょにはたらきます」
「清香は、きれいなお洋服を作りたいです。そして金ちゃんのお嫁さんになります」

 なぜ、清香ちゃんが広島で僕の家を宿舎にしたのか、すべてが分かったような気がした。 清香ちゃんを僕はもう離さない、戸籍上も女性になった彼女を、妻として迎えるのだ。

 そっと清香ちゃんの手を握り、彼女を抱き寄せキスをした。

 

 【終わり】



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